
交通事故の被害に遭った多くの方が不安を抱える「示談交渉」。
実は、「誠実に説明してもらったから」「早く解決したいから」と示談書(免責証書)にすぐサインすると、取り返しのつかない損をしてしまう可能性があるのです。
本記事では「被害者側」の目線で、交通事故の示談とは何か、示談書(免責証書)に書かれている内容や示談金の内訳、交渉のタイミングといった基本事項を整理していきます。
加えて、交通事故トラブルを解決する弁護士の視点から、気をつけるべき6つの注意点を解説します。
示談書(免責証書)にサインする前に、ぜひ一度ご確認ください。
交通事故の示談とは? 裁判とは何が違う?
「交通事故の示談」とは、事故によって発生した「損害」の賠償を、被害者から加害者に請求する際の話し合いのことを指します。
示談は法律的には民法第695条に定める「和解契約」に該当します。
裁判のような勝ち負けではなく、互いに譲歩しつつ話し合いのなかで争いをやめ、双方合意のもとトラブルを解決するものです。
混同されやすい示談と裁判の違いを整理しておきましょう。
示談と裁判では、主に「解決までの期間」と「獲得できる賠償金」に大きな違いがあります。
| 比較ポイント | 示談 | 裁判 |
|---|---|---|
| 解決までの期間 | 短い(話し合いで合意できれば解決) | 長い(訴訟提起から1〜2年程度) |
| 獲得できる賠償金 | 裁判より低額(弁護士基準の8割程度の提示が多い) | 高額(弁護士基準 + 弁護士費用 + 遅延損害金) |
解決までの期間について
示談は、当事者の話し合いで合意できれば解決となるので、短い期間で解決することが可能です。
一方で裁判は、訴状と証拠を裁判所に提出して争点について双方が主張・立証するため、解決までに訴訟を提起してから1年から2年程度はかかります。
獲得できる賠償金について
獲得できる賠償金は、示談よりも裁判で解決したほうが高額になります。
裁判では、損害額を弁護士基準で算定した上で「弁護士費用」と「遅延損害金」が加算されます。
対して示談では、弁護士が入っても保険会社は弁護士基準で計算した賠償金の8割程度でしか提示してこないことが多く、弁護士費用や遅延損害金も加算されないため、獲得できる賠償金は裁判よりも低額になります。
なお、示談は双方が合意さえすれば裁判より迅速・低コストでの解決が可能です。
しかし、裁判のような強制力はないことや、あとから内容を覆すことができないことは認識しておきましょう。
一般的な交通事故トラブルでは、示談での決着がつかない場合、裁判に持ち込む流れとなります。
交通事故の示談交渉の相手は誰?
交通事故の示談交渉の相手は、原則として加害者側の任意保険会社です。
加害者本人ではなく、保険会社の担当者が交渉に当たるのが一般的です。
加害者が任意保険に未加入だった場合は、加害者本人(または加害者が独自に依頼した弁護士)が交渉相手となります。
任意保険に加入していない車での事故でも、加入が義務付けられている自賠責保険があるため、そこから補償を受けることはできるでしょう。
万が一、加害車両が自賠責保険に加入していなかった場合には、政府保証事業で自賠責保険と同等の補償を受けることが可能です。
しかし、自賠責保険はあくまで最低限の補償であり、被害額に相当する金額には満たない場合がほとんどです。
法的に正当な基準の補償を受けたい場合は、後述する「弁護士基準」での請求とするために、弁護士をつけて示談交渉に臨むことをおすすめします。
交通事故発生後、いつから示談交渉が始まる?
示談交渉を始めるタイミングは、事故の状況によってケースバイケースであり、法的な定めもありません。
一般的にはいつから示談交渉が開始されるものなのか、事前に確認しておきましょう。
| ケース | 示談交渉の開始時期 |
|---|---|
| ケガが完治した場合 | 治療終了後 |
| 後遺障害が残った場合 | 症状固定→後遺障害等級認定後 |
| 死亡事故の場合 | 加害運転手の刑事処分決定後 |
なお、「症状固定」とは、治療を続けてもこれ以上の改善が見込めないと主治医が判断した状態のことです。
完治している場合もあれば、まだ痛みやしびれが残る場合や、それによって後遺障害が認定される場合もあるでしょう。
治療が不完全な状態で示談を急いでしまうと、適正な示談金を請求できなくなるリスクがあります。
保険会社から早期の示談を打診されることがありますが、まだ治療中・症状固定前の段階で応じてしまわないように注意しましょう。
死亡事故の示談交渉の開始時期については特に決まりはありませんが、加害運転手の刑事処分が決まった後になることが一般的です。
加害運転手の刑事処分の結果が出るまでの時間は、裁判を行う場合には1年程度かかることが多いので、示談交渉の開始時期は事故日を基準に考えると1年以上後になるケースが多くなります。
示談書(免責証書)に記載される項目
示談交渉が成立すると、その合意内容を文書にまとめた「示談書(免責証書)」が作成されます。
示談書(免責証書)に法律で定められた書式はありませんが、保険会社が用意するテンプレートはどこも概ね共通しており、一般的に以下の項目が記載されています。
【示談書(免責証書)の項目例】
- 加害者/被害者双方の氏名・住所・車両登録番号(ナンバー)
- 事故の日時・場所・状況などの詳細
- 加害者/被害者それぞれが支払う損害賠償金の項目と金額
- 明記された賠償金を受領したらその他の損害賠償請求権を放棄する旨の記載
- 今後お互いに一切の異議を申し立てない旨の記載
- 双方の署名・捺印
どこの保険会社にも「損害賠償請求権を放棄する」「今後一切の異議を申し立てない」という文言がテンプレート的に入っていますが、これには注意が必要。
たとえば、あとから後遺障害等級が上がってしまった場合でも、保険会社はこの文言を盾にして、交渉に応じない可能性があるのです。
リスクを考慮して、「ただし、症状が悪化して現在の後遺障害等級を上回る後遺障害等級が認定された場合には、別途協議する」といった文言追加を依頼しましょう。
示談書(免責証書)の内容は加害者側が一方的に提示するものではなく、双方の話し合いのなかで調整できるものです。
以下の記事もあわせて参考にご覧ください。
交通事故の示談金(賠償金)の内訳
「示談金(賠償金)」とひとことで言っても、そのなかにはさまざまな損害項目が含まれます。
交通事故(人身事故)における示談金の主な内訳は以下のとおりです。
【慰謝料】
- 入通院慰謝料
入院・通院を余儀なくされたことへの精神的苦痛に対する補償 - 後遺障害慰謝料
症状固定後も後遺障害が残った場合の、精神的苦痛に対する補償 - 死亡慰謝料
被害者が死亡した場合の、本人および遺族への精神的苦痛に対する補償
【その他の損害(一例)】
- 治療費
病院・整骨院などでの治療にかかった費用 - 通院交通費
通院のための交通費 - 休業損害
事故によって仕事を休んだことによる収入の損害 - 逸失利益
後遺障害や死亡によって、将来得られるはずだった収入が失われた損害 - 葬儀費
死亡事故の場合に生じる葬儀関連費用
これらのうち、どの項目がいくら請求できるかは、事故の状況・ケガの程度・被害者の年齢や職業などによって大きく異なります。
被害者自身が正確に算出することはほぼ不可能と言えるでしょう。
示談金の全体像を把握しもれなく請求するためには、弁護士に依頼して適正額を確認することが、正確かつ効率的です。
交通事故の示談金に含まれる「慰謝料」の基準と目安
交通事故の示談金に含まれる慰謝料は、どの「算定基準」を用いるかによって金額が大きく変わります。
基準は以下の3つです。
- 自賠責保険基準
法律で定められた最低限の基準。金額は3つの基準のなかで最も低い。 - 任意保険基準
各保険会社が独自に設定した基準。自賠責基準にやや上乗せした程度であることが多く、非公開。 - 弁護士基準
過去の裁判例をもとに定められた基準。3つのなかで最も金額が高く、法的に正当な水準とされている。
保険会社が被害者に提示してくる示談金は通常、自賠責基準または任意保険基準で算定されています。
弁護士が介入してから初めて弁護士基準での交渉となり、示談金が大幅に増額されるケースは少なくありません。
その差がとりわけ顕著に現れるのが後遺障害慰謝料。
後遺障害等級ごとの自賠責保険基準と弁護士基準の金額を比較すると、以下となります。
| 後遺障害等級 | 弁護士基準の後遺障害慰謝料 |
|---|---|
| 後遺障害1級 | 2800万円 |
| 後遺障害2級 | 2370万円 |
| 後遺障害3級 | 1990万円 |
| 後遺障害4級 | 1670万円 |
| 後遺障害5級 | 1400万円 |
| 後遺障害6級 | 1180万円 |
| 後遺障害7級 | 1000万円 |
| 後遺障害8級 | 830万円 |
| 後遺障害9級 | 690万円 |
| 後遺障害10級 | 550万円 |
| 後遺障害11級 | 420万円 |
| 後遺障害12級 | 290万円 |
| 後遺障害13級 | 180万円 |
| 後遺障害14級 | 110万円 |
| 非該当 | 0円 |
※()内は2020年3月31日以前に発生した事故における金額
自賠責保険基準と弁護士基準の金額差は、最も軽い14級でも78万円、重い等級になると数百万円〜1,000万円以上に及びます。
保険会社との示談で金額を提示されたら、まず弁護士基準での適正額を確認してみましょう。
交通事故の示談で気をつけたい6つのNGポイントを弁護士が解説
最後に、交通事故の示談交渉において被害者の方が陥りやすい「NGポイント」を6つ解説します。
「知らなかった」とあとから後悔しないために、必ずチェックしておきましょう。
①事故現場で口頭の示談をしない
示談は書面がなくても、口約束だけで法的に有効な契約として成立してしまいます。
事故直後の混乱した状況のなか、当事者間で「お金で解決しましょう」と金額を持ちかけられたとしても、絶対に応じないようにしましょう。
示談金は過失割合やケガの程度、今後の治療内容、残る後遺障害など、あらゆる要素を踏まえて総合判断されるもの。
その場の雰囲気で「大丈夫です」「少額でいいです」などと発言するのもNGです。
事故後は警察を呼ぶ、お互いの身元確認をする、証拠を残すといった冷静な対応をしましょう。
②提示された示談書(免責証書)にすぐサインしない
一度サインして保険会社に返送した示談書(免責証書)は、原則取り消し不可です。
一見条件のいい示談に見えても、あとから不利な点が見つかるかもしれません。
「早く解決したい」という気持ちからそのままサインしたくなる方もいるかもしれませんが、必ず冷静に内容を確認しましょう。
万が一「早くサインしてほしい」と圧力をかけられたとしても、被害者側にその場でサインする義務はありません。
「一度内容を弁護士と確認したいので、持ち帰らせてください」と断りを入れても問題ないでしょう。
③保険会社からの提示額を鵜呑みにしない
保険会社が提示してくる示談金は、前述のとおり自賠責保険基準または任意保険基準で算定されており、弁護士基準と比べると大幅に低い金額であることがほとんどです。
保険会社の担当者は「適正な金額」と説明するかもしれませんが、それはあくまで保険会社の基準。
法的に正当かは異なります。
すぐに承諾せず、弁護士に相談して妥当性を確認しましょう。
④保険会社に不用意な発言をしない
治療中、保険会社の担当者から「お体の具合はいかがですか?」と確認の電話がかかってくることがあります。
自然な会話のなかで「ほとんど痛みはありません」「もう大丈夫そうです」と安易に答えるのはNG。
保険会社が治療費の打ち切りを判断する根拠に使われてしまう可能性があります。
治療の状況や症状については主治医の判断を基準に答えるよう心がけ、曖昧な表現や自己判断による発言は控えるようにしてください。
また、不用意な発言をしないために、保険会社からの電話を無視するのも得策ではありません。
保険会社とのやり取りにリスクや精神的なプレッシャーを感じるなら、弁護士を窓口にして直接のやり取りを減らすといった負担軽減策を検討してみてください。
⑤治療費を打ち切られても治療の必要があれば通院をやめない
保険会社から「そろそろ治療費の支払いを終了します」と打診されることや、一方的に治療費が打ち切られてしまうことがあります。
しかし、保険会社が治療費の支払いを打ち切ったからといって、通院をやめなければいけないという訳ではありません。
医師が「まだ治療が必要」と判断しているのであれば、通院を続けましょう。
途中で通院をやめてしまうと、「治療の必要がなかった」という主張の根拠にされたり、後遺障害等級の認定に影響が出たりするリスクがあります。
なお、一時的に自己負担となった治療費は、治療の必要性が証明できれば、示談交渉のなかであとから請求することが可能です。
⑥相手方の保険会社を「味方」と思い込みすぎない
保険会社のなかには、まるで被害者の味方であるかのように誠実に、丁寧に対応してくれる担当者もいます。
そうした対応に安心感を覚えるのは自然なことですが、保険会社はあくまでも加害者側の組織であり、示談交渉のプロであることを忘れてはなりません。
誠実な対応と、被害者にとって有利な条件は、まったく別の話。
「保険会社の担当がいい人だから提案を受け入れよう」と条件を鵜呑みにしてしまうのは危険です。
弁護士など第三者の目を挟みながら、あくまで冷静に判断しましょう。
以下のコラムもあわせてご確認ください。
交通事故の示談は慌てず、解決実績のある弁護士に相談を
交通事故の示談は、一度成立してしまうと覆すことができません。
示談を進めるうえで重要なのは、解決を急ぎすぎないこと。
ひと呼吸おいて、示談書(免責証書)にサインする前に一度弁護士へご相談ください。
交通事故トラブルに強いクロノス総合法律事務所は、弁護士基準で計算された賠償金でなければ示談しないという方針をとっています。
保険会社から提示された金額に疑問を持たれている方は、まずお気軽にご相談ください。