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交通事故で脳挫傷と診断されたら高次脳機能障害を専門的に診ている病院で後遺障害診断書を作成してもらおう!

更新日:2023年10月10日

高次脳機能障害は見落とされやすい!

高次脳機能障害とは、交通事故などによって頭部を受傷し脳に損傷を受けたことによって認知機能や人格に生じる障害のことをいいます。

高次脳機能障害の代表的な症状として注意障害、記憶障害、遂行機能障害、人格変化などがあげられます。

①注意障害

注意障害とは、会話や動作が散漫になったり、思考力、判断力、集中力が低下した状態、また、それによって同時に2つのことができなくなってしまうような状態を言います。

②記憶障害

記憶障害とは、新しいことを記憶すること、記憶を保持すること、記憶を思い出すことのいずれかに障害がある状態を言います。新しいことを記憶できない場合を前向性健忘と言ったりします。また、事故前に覚えていた記憶を思い出せない場合を逆行性健忘と言ったりします。

③遂行機能障害

遂行機能障害とは、目的に向かって計画を立てて計画通りに実行する能力が低下した状態を言います。

④人格変化

人格変化とは、ちょっとしたことで怒るようになり感情のコントロールができなくなったり、事故前は普通の社会生活を送っていた成人が、事故後、人に甘えて子供っぽくなったりといった感情や人格面で変化が生じることを言います。

注意障害、記憶障害、遂行機能障害、人格変化といった症状は、事故前の状態を知らない人からすると、もともとそういった傾向のある人だと思われてしまい、高次脳機能障害と気づかれないことがよくあります。

被害者のことをよく知っている人でも、気づかないことがあるので、第三者が気づかないのも仕方ないのかもしれませんが、実は、医師でも高次脳機能障害を発症していると気づかず見落とすことがあります。

そのため、高次脳機能障害は見落とされやすい後遺障害だといわれています。

自賠責でも高次脳機能障害が見落とされやすい後遺障害であることを前提として審査対象とする事案の基準を定めている

実は、後遺障害を認定する自賠責の損害保険料率算出機構も高次脳機能障害が見落とされやすい後遺障害であることを前提として、高次脳機能障害の審査対象とする事案の基準を定めています。

A.後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる場合(高次脳機能障害や脳の器質的損傷の診断名またはMTBIや軽度外傷性脳損傷の診断名が記載されている等)

全件高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。

B.後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められない場合(高次脳機能障害や脳の器質的損傷の診断名またはMTBIや軽度外傷性脳損傷の診断名が記載されていない等)

以下の①~⑤の条件のいずれかに該当する事案(上記A.に該当する事案は除く)は、高次脳機能障害(または脳の器質的損傷)の診断が行われていないとしても、見落とされている可能性が高いため、慎重に調査を行う。

具体的には、原則として被害者本人および家族に対して、脳外傷による高次脳機能障害の症状が残存しているか否かの確認を行い、その結果、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる場合には、高次脳機能障害に関する調査を実施の上、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。

①初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷、MTBI、軽度外傷性脳損傷等の診断がなされている症例

②初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の障害が認められる症例

③経過の診断書において、初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が記述されている症例

④初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過の診断書において、当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁、GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例

⑤その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

(2018年5月31日「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」抜粋)

長くて分かりにくいですが、Aの内容は、後遺障害診断書に高次脳機能障害の症状が記載されていたり、高次脳機能障害、脳外傷等と記載されている場合には、すべての事案が高次脳機能障害の審査対象になるということを言っています。

一方、Bの内容は、後遺障害診断書に高次脳機能障害の症状、高次脳機能障害、脳外傷等が記載されていない場合に、①から⑤の条件に該当するときには、高次脳機能障害の審査対象になるということを言っています。

このことから分かるのが、交通事故の被害者が高次脳機能障害の可能性があるのに、医師が作成する後遺障害診断書に、高次脳機能障害の症状も脳外傷があるということも記載されないことがあるということです。

普通に考えて、交通事故で高次脳機能障害になってしまうほどの怪我を負って、後遺障害診断書に高次脳機能障害の症状も脳外傷も記載されないということがあるの?って思ってしまいますが、実際に私も経験したことがあります。

それだけ高次脳機能障害は見落とされやすい後遺障害だということなんです。

高次脳機能障害が見落とされていた事例

当事務所が実際に経験した高次脳機能障害が見落とされていた事例を紹介します。

被害者は、交通事故によって脳挫傷、急性硬膜下血腫と診断されました。

ただし、急性硬膜下血腫については、血腫が少量であったため開頭血腫除去術は実施されておらず、吸収されて消失しました。

開頭血腫除去術が実施されている事案では、高次脳機能障害を発症することが多いですが、一方、開頭血腫除去術が実施されていない事案では、脳挫傷の程度が軽く、頭蓋内圧の上昇など頭蓋内の環境変化で生じる二次性脳損傷も発生しにくいためか、高次脳機能障害を発症しないケースも多々あります。

そのため、医師は、患者に軽度の高次脳機能障害の症状があっても、それを見落としてしまうことがあるようです。

当事務所が担当した事例も、開頭血種除去術は実施されていませんでした。

しかし、被害者自身は、記憶障害を感じていたのですが、医師が問題ないと被害者に伝えていたため、被害者は、記憶障害が自分の勘違いと思ってしまい、そのまま症状固定としてしまいました。

その医師が作成した後遺障害診断書には高次脳機能障害という診断名はなく、高次脳機能障害の症状も記載されていませんでした。

その後、当事務所に相談に来たのですが、軽度の記憶障害があって、仕事にも支障が生じているという話でしたので、念のために高次脳機能障害を専門的に診ている病院を案内して、通院してもらうことにしました。

高次脳機能障害を専門的に診ている病院では、初回の診断で高次脳機能障害の可能性があるという見立てをして、その後、何度か検査を実施して、最終的には高次脳機能障害という診断をしました。

もちろん、後遺障害診断書は、あらためて高次脳機能障害を専門的に診ている病院で作成してもらい、自賠責では高次脳機能障害で7級が認定されました。

高次脳機能障害を専門的に診ている病院で後遺障害診断書を作成してもらおう!

脳挫傷の場合、高次脳機能障害でなくても脳挫傷痕で12級の後遺障害が認定されますが、高次脳機能障害の場合、後遺障害等級は最低でも9級になりますので、やはり、見落とされないように高次脳機能障害を専門的に診ている病院を受診して、後遺障害診断書を作成してもらいましょう。

局所性の脳損傷である脳挫傷と違いびまん性軸索損傷の場合、高次脳機能障害を発症しているケースでは、脳室拡大・脳萎縮という画像所見があることが多いので、高次脳機能障害が見落とされるケースは、脳挫傷の場合と比べて少ないように思います。

しかし、医師によっては脳室拡大・脳萎縮の画像所見を見落とすこともあります。そのため、びまん性軸索損傷の場合でも、高次脳機能障害を専門的に診ている病院を受診して、後遺障害診断書を作成してもらいましょう。

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