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交通事故で同乗者が怪我をしても自賠責保険で補償されない?|【公式】横浜の交通事故に強い弁護士《クロノス総合法律事務所》

更新日:2023年10月10日

交通事故で同乗者が怪我しても自賠責保険で補償されない?

2022年7月21日の日本経済新聞の記事に以下のような記事がありました。

 

交通事故の備え 自賠責は不十分、任意保険に加入を

 

この記事の趣旨は、自賠責保険だけでは十分な賠償ができなかったり、運転手自身や同乗者が怪我をしたときの補償が十分ではないから任意保険に入っておきましょうというものです。

 

この記事の方向性は、決して間違っておらず、自賠責保険というのは、自動車で他人に人身損害を負わせてしまった時に備えて必ず加入しなければならない強制保険であるため、最低限の補償内容しかありません。

 

例えば、自動車を運転しているときに他人を大怪我させてしまい、多額の治療費や休業補償をしなければならなくなった場合を考えてみましょう。

 

この場合、自賠責保険にしか加入していなければ、自賠責の怪我に対する補償は120万円までとなりますので、大怪我をさせてしまった他人が治療を受けたり、仕事を休んだりして、治療費、休業補償で120万円を超えた場合には、超えた分は運転手自身が賠償しなければなりません。

 

通常、交通事故の場合、病院は保険診療ではなく自由診療で対応するため、1ヶ月も入院していれば、治療費だけで120万円を超えてしまいます。下手をすると、治療費だけで1000万円を超えてしまうようなケースもあります。

 

任意保険に加入していれば、基本的には、自賠責保険の上限額を超えた治療費や休業補償は、任意保険が支払ってくれますので、任意保険に入っておきましょうという日経新聞の記事はまったくその通りです。

 

しかし、本当に交通事故で同乗者が怪我をしても自賠責保険で補償されないのでしょうか?

 

夫が運転していた自動車に同乗していた妻は「他人」?

自賠責保険は、自動車損害賠償保障法(「自賠法」といいます。)という法律に基づく保険制度です。特に自賠法3条という条文が重要です。

自動車損害賠償保障法3条
(自動車損害賠償責任) 第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

 

簡単に言ってしまうと、自賠法3条は、自動車を運転していて「他人」を怪我させて損害を発生させたら、自動車の所有者などの運行供用者は、その「他人」に対して賠償しなければなりませんよという趣旨の条文です。

 

この法律は、自動車が社会に普及するに当たり交通事故が増えていく中で、交通事故の被害者が加害者から損害賠償を受けられやすくすることで、被害者を救済するということを目的に定められた法律です。

 

この条文の中に「他人」という言葉がでてきます。

「他人」とは、広辞苑によると以下のような意味です。

 

1 自分自身以外の人。ほかの人。

2 血縁のない人。親族でない人。「兄弟は他人のはじまり」

3 その事柄や、その仲間に関係のない人。何の関係もない人。

 

そうすると、自賠法3条の「他人」には、配偶者、親、子供などの親族は含まれないように思います。

 

では、もう一度、自賠法の目的をみてみましょう

 

「交通事故の被害者が加害者から損害賠償を受けられやすくすることで、被害者を救済する」

 

自賠法の目的は交通事故の被害者救済という点にありますので、この目的から考えると、自賠法3条の「他人」の範囲は広く考えましょうということになります。

 

自賠法3条の「他人」の範囲について判断した有名な最高裁判例があります。

最判昭和47年5月3日の「妻は他人事件」と呼ばれる最高裁判例です。

 

この最高裁判例では、夫の運転する自動車に妻が同乗していたところ、夫の過失によって妻が怪我をしてしまった場合に、自賠法3条が適用されて、妻が夫の所有する自動車にかけられていた自賠責保険が使えるかということが問題になりました。

 

この最高裁判例は、以下の用のように判断して、運行供用者の配偶者であっても自賠法3条の「他人」にあたる可能性があると判断しました。

 

最判昭和47年5月3日「妻は他人事件」
「自賠法三条は、自己のため自動車を運行の用に供する者(以下、運行供用者という。)および運転者以外の者を他人といつているのであつて、被害者が運行供用者の配偶者等であるからといつて、そのことだけで、かかる被害者が右にいう他人に当らないと解すべき論拠はなく、具体的な事実関係のもとにおいて、かかる被害者が他人に当るかどうかを判断すべきである。」

 

この最高裁判例は、自賠法3条の「他人」とは、運行供用者および運転者以外の者と定義して、運行供用者である夫の妻であっても「他人」に当たる可能性があるという判断をしました。

 

そうすると、赤枠で囲った同乗者の身体は、自賠責保険で補償される場合もありますので、日経新聞の同乗者に自賠責保険での補償がないという記事は誤っているということになります。

2022年日経新聞の自動車保険の記事

   ※2022年7月21日の日経新聞記事より抜粋

 

どのような場合に同乗者に自賠責保険の補償があって、どのような場合に補償がないの?

では、どのような場合に同乗者に自賠責保険の補償があるのでしょうか。

 

上記の最高裁判例から考えると、運行供用者や運転手以外は自賠法3条の「他人」に当たるのですから、多くのケースで同乗者は、自賠法3条の「他人」にあたって、自賠責保険で補償されることになります。

 

では、どのような同乗者に自賠責保険の補償がないのでしょうか。

①自動車の所有者である場合

自動車の所有者は運行供用者に当たりますので、自賠法3条の「他人」にはあたりません。

そのため、自動車を運転しているのが別の人であったとしても、同乗者がその車の所有者である場合には、同乗者は運行供用者にあたってしまうため自賠法3条の「他人」にあたらず、自賠責保険で補償されないということになります。

 

②運転補助者にあたる場合

自賠法2条は、運転の補助に従事する者(運転補助者)も運転手にあたると規定していますので、同乗者が運転補助者の場合も自賠法3条の「他人」にあたらないため、自賠責保険で補償されません。

 

業務として運転行為に参加して、運転を助けている者をいいますので、単に同乗者が隣でナビをしているだけでは、運転補助者にはあたらないので、このような場合には、同乗者も自賠責保険で補償されるということになります。

 

③そもそも運転手に過失がない場合

自賠法3条は、運転手に事故を起こした過失があることを前提としていますので、運転手に過失がない事故の場合には、同乗者にも自賠責保険の補償はありません。

 

例えば、追突事故の場合、運転手に過失はありませんの、追突された事故の同乗者は、追突された自動車にかけられている自賠責では補償されないということになります。

もっとも、この場合は、加害者の自動車についている自賠責で補償されるので、全く補償がないということにはなりません。

 

まとめ

このように、交通事故を起こした車両の同乗者であっても、運転手に過失がある事故であれば、その自動車についている自賠責保険で補償されます。

 

加害者がいる事故の場合には、実際に乗っていた自動車の自賠責を使うことは少ないかもしれませんが、同乗者が運転手の妻や子供などで、運転手の過失が大きい事故の場合には、乗っていた自動車の自賠責保険を使うことで最善の解決を得られることもあります。

 

実際に、当事務所が解決した交通事故には、同乗していた自動車の自賠責保険を使って、加害者から賠償してもらうよりも高額の金額を得て解決したということがありました。

 

身内の運転する自動車に同乗しているときに、運転手の過失が大きいという理由から、加害者側の保険会社から賠償してもらえないようなケースでは、同乗していた自賠責保険を使って最善の解決を得られることもありますので、一度、クロノス総合法律事務所までご相談ください。

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