
業務中や通勤中に交通事故に遭った場合、自賠責保険にも労災保険にも申請することができます。
しかし申請の結果、認定された等級がそれぞれ異なるケースもしばしばあるもの。
今回は「なぜ等級に違いが生まれるのか」を軸にしつつ、併用する場合のルールや順番といったポイントを紹介していきます。
これから後遺障害等級認定の申請をする方はもちろん、申請の結果、自賠責保険と労災保険の等級が違うことに悩んでいる方も、ぜひ参考にしてみてください。
自賠責保険と労災保険は併用できる?
勤務中や通勤中に遭った交通事故は、同時に「労災事故」でもあります。
損害賠償の問題(自賠責保険)と、労働者補償の問題(労災保険)が、1つの事故から同時に発生している状態です。
このとき、自賠責保険と労災保険は併用が可能です。
どちらか一方しか選べないというルールや、併用したことが原因で不利な立場に追い込まれるようなことはありません。
むしろ、本来受け取れるはずの給付を取りこぼさないためには、迷わず両方に請求すべきでしょう。
ただし、いくつか押さえておくべき注意点もあります。今回は主なポイントを3つの項目で紹介します。
補償の二重取りはできない
自賠責保険と労災保険の両方に請求できるとはいえ、同じ性質の損害については二重に受け取ることができません。
どちらか一方からしか支払われないよう調整される仕組みになっています。
たとえば以下のような項目は、それぞれの保険で名称は異なるものの、同じ性質です。
| 労災保険の給付 | 自賠責保険の補償 |
|---|---|
| 療養(補償)等給付 | 治療費・療養費 |
| 休業(補償)等給付 | 休業損害 |
| 障害(補償)等給付・傷病(補償)等年金 | 逸失利益 |
| 遺族(補償)等給付 | 死亡による逸失利益 |
| 葬祭料(葬祭給付) | 葬祭費用 |
一方で、以下は支給調整の対象になりません。
- 労災保険:特別支給金
損害を補填する給付ではなく、被災労働者の福祉を目的とした上積み給付という位置づけのため。 - 自賠責保険:慰謝料
労災保険に慰謝料という費目がそもそもないため。
つまり、これらは併用したときに満額受け取ることのできるお金となります。
両方申請するのは手間がかかりますが、それ以上に金銭的メリットが大きいでしょう。
優先順位はケースバイケース
自賠責保険と労災保険は併用できるうえ、どちらを先に請求しても構いません。
被害者本人が自由に選べます。
それぞれ先に申請することを「自賠先行」、「労災先行」と呼びます。
実務上は「自賠先行」で進むケースが多いですが、必ずしもベストとは限りません。
どちらのほうが利益を最大化できるか、弁護士に相談してみましょう。
一般的な目安は以下の通りです。
「自賠先行」とすべきケース
| 自賠責保険 | 労災保険 | |
|---|---|---|
| ①生活のためにすぐお金を受け取りたいとき | 「仮渡金」あり | なし |
| ②慰謝料の補償を受けたいとき | 慰謝料補償あり | なし |
| ③後遺障害や死亡の補償についての時効が迫っているとき | 3年で時効 | 5年で時効 |
「労災先行」とすべきケース
| 自賠責保険 | 労災保険 | |
|---|---|---|
| ①治療が長期化しそうなとき | 治療費を含む「傷害による損害」の上限は120万円 | 治療費は上限なく全額補償 |
| ②療養や休業の補償についての時効が迫っているとき | 3年で時効 | 2年で時効 |
| ③自身の過失割合が7割以上のとき | 過失が7割以上となると「重過失減額」によって減額あり | 減額なし |
重過失減額については以下の記事もご参照ください。
基本的には「より早く、大きな金額をもらえる見込みがあるほう」を優先して申請を進めましょう。
加えて、注意すべきは示談のタイミング。
示談金のなかに逸失利益など生活保障に関する項目がある場合は、前述の「二重取り」を防ぐために、保険が支給停止や減額調整されてしまうことがあります。
たとえば、当事務所が扱った死亡事故の事案では、労災保険・自賠責保険・自動車保険への請求の順番を誤れば、獲得できる金額が伸びないうえに、遺族年金の支給まで止まってしまう状況でした。
そこで本件では遺族年金を止めないために、示談を選ばず裁判を起こすことに。
和解を成立させたあとは自動車保険の会社とも、どこまでを労災保険との控除範囲とするか交渉。
双方納得のうえで控除範囲を最小限にとどめ、高額の賠償金獲得に成功しています。
後遺障害等級認定の結果に差異が生まれる場合もある
自賠責保険も労災保険も、原則同じ基準で判断されています。
1級から14級までの区分があるのも同様です。
しかし、実際には同じ事件に関する後遺障害でも、自賠責保険と労災保険で異なる等級が認定されることは、しばしばあるのです。
認定結果に納得がいかない場合、不服を申し立てる制度が用意されているので活用しましょう。
自賠責保険では「異議申立て」、労災保険では「審査請求」と呼ばれる手続きです。
なぜ後遺障害等級認定に差が生まれるのかは、次章にて解説していきます。
自賠責保険と労災保険の後遺障害等級に違いが生まれる4つの理由
認定基準が同じであるにもかかわらず、違う結果になってしまうこともある、自賠責保険と労災保険の後遺障害等級。
それぞれの制度の目的や方法から分解して考えていくと、差異が生まれる理由が見えてきます。
ここでは大きく4つの項目に分けて紹介しましょう。
制度の目的が違うから
自賠責保険は自動車損害賠償保障法にもとづく、交通事故の被害者に対する最低限の賠償を確保するための制度です。
加害者が発生させた損害の大きさに見合った賠償額を算定します。
損害には精神的苦痛も含まれ、被害者は加害者に慰謝料を請求することもできます。
労災保険は労働者災害補償保険法にもとづく、労災にあった労働者の保護を目的とした制度です。
あくまで働けなくなったことによる生活の保障と、社会復帰の支援が主眼にあり、加害者への慰謝料請求の概念などはありません。
制度の対象が違うから
自賠責保険が対象とするのは交通事故に遭ったすべての被害者です。
会社員だけでなく、自営業者、専業主婦(主夫)、学生、高齢者、乳幼児も含まれます。
一方、労災保険が対象とするのは労働者のみです。
そのため労災の障害等級は、「その障害が残ったことで、どの程度働けなくなったか」という労働能力の観点が軸に据えられています。
同じ認定基準を使って判断していても障害の種類によっては、この対象の違い(労働能力観点の有無)が異なる認定結果を生んでいることがあります。
認定機関が違うから
自賠責保険と労災保険は、申請先も判断する機関もまったく別です。
| 自賠責保険 | 労災保険 | |
|---|---|---|
| 申請先 | 相手方の自賠責保険会社 | 勤務先を管轄する労働基準監督署 |
| 判断機関 | 損害保険料率算出機構 | 労働基準監督署 |
互いに独立した機関が、それぞれ独自に調査して判断します。
これらの機関に上下関係はなく、どちらかが出した結論に従う必要はありません。
認定方法が違うから
自賠責保険の場合、原則書面での審査となります。
被害者本人と面談するケースはありません。
一方で労災保険の場合は書面のみならず、労働基準監督署の担当者や労災医員が被災した労働者本人と面談して、自覚症状や仕事への具体的な支障を直接確認することがあります。
たとえば骨盤骨の変形障害の場合、労災保険も自賠責保険も「裸体となったとき、変形(欠損を含む)が明らかにわかる程度のもの」という同じ基準で判断されますが、自賠責の場合は診断書と画像から認定、労災の場合は面談で実際の変形状況を確認したうえでの認定となります。
当事務所が担当した事件では、弁護士の目視でも変形が見て取れる状態だったため、面談でも認定される見込みが立ち、結果的に自賠責・労災ともに同じ等級を得ることができました。
後遺障害等級に差があるケース
一般的には労災保険の等級のほうが高くなりやすいと言われています。
しかし、あくまでこれは全体傾向であり、逆のパターンも発生します。どちらのケースも見てみましょう。
労災保険のほうが重い後遺障害等級のケース
労災保険のほうが高い等級になりやすいのは、面談での状態確認や聞き取りがあるからです。
書面確認のみでスピーディーに結論が出やすい自賠責保険と比較して、労災保険は時間を掛けて慎重に判断される傾向と言えるでしょう。
この差が出やすいのは、次のような障害です。
- 高次脳機能障害
記憶力の低下、集中力の続かなさといった症状は、画像所見だけでは見えない部分で日常生活、社会生活の制限が生まれている可能性があります。 - 脊髄損傷
麻痺の程度そのものは画像や神経学的検査で確認できますが、しびれや動かしにくさといった症状が、どの程度業務に支障をきたすかという観点は、被害者の職業や実際の就労状況次第です。 - CRPS(複合性局所疼痛症候群)
自賠責保険では厳格に判断されやすい障害です。
痛みやむくみ、発汗などは書面だけでは伝わりにくく、労災のほうが訴えを踏まえた評価になりやすい傾向にあります。
自賠責保険のほうが重い後遺障害等級のケース
必ずしも労災保険のほうが等級が重くなるというわけではありません。
当事務所が扱った事件で、どちらも申請した結果、自賠責保険のほうが高い等級だったケースもありました。
原因は、認定に使われた資料です。高次脳機能障害の資料は、労災保険用と自賠責保険用で別々に作成されます。
このとき、労災用の認定資料が自賠責用の資料よりも障害の程度を低く評価した内容で作成されていたのです。
そこで認定資料を取り寄せて内容を確認し、再作成のポイントを示して、医師に作り直してもらいました。
その資料をもとに審査請求を行ったところ、労災保険の等級が上がり、自賠責保険と同じ等級に変更されています。
このように申請用の資料は、「同じ医師が書いたとは限らない」「書いた時期も違うかもしれない」という事情から、資料の内容にずれが生じることがあるので注意が必要です。
後遺障害等級に差がある場合の対処法
認定された等級に納得がいかない場合、そのまま受け入れる必要はありません。
自賠責保険にも労災保険にも、結果を争うための手続きが用意されています。
自賠責は異議申立て、労災は審査請求へ
自賠責保険と労災保険は別の制度であるため、不服を申し立てるフローや名称も別々となります。
【自賠責保険の場合】
後遺障害等級の認定
↓
異議申立て(自賠責保険会社に提出/回数制限なし)
↓
自賠責保険・共済紛争処理機構への申請(原則1回)
↓
裁判
【労災保険の場合】
障害等級の決定
↓
審査請求(労働者災害補償保険審査官/3か月以内)
↓
再審査請求(労働保険審査会/2か月以内)
↓
裁判
※審査請求の決定に不服がある場合、再審査請求を経ずに裁判へ進むこともできます
どちらも最終的な判断の場は裁判所となります。
何度でもできる自賠責保険の「異議申立て」と異なり、労災保険の「審査請求」「再審査請求」はそれぞれ1回ずつであり、期間も限られているので注意しましょう。
医学的証拠がカギ
ここまで解説の通り、自賠責保険と労災保険は目的や判断機関が異なり、差異が生まれるのも「当たり前」と言えます。
そのため、「労災では○級が認定されているのに、自賠責は△級なのはおかしい」と、差異の事実だけを主張しても、有利な結果を得ることは難しいでしょう。
本当に必要なのは、なぜ低いほうの認定になったのかを分析したうえで、判断を覆すだけの新たな医学的証拠を集めて提出すること。
各認定機関に対して認定過程の資料の開示を求めることも有効です。
必要に応じて弁護士を活用しながら、有利な証拠を集め、不服申し立てに臨みましょう。
自賠責保険と労災保険の両方が絡んだ解決事例2選
交通事故の解決を得意とするクロノス総合法律事務所では、自賠責保険と労災保険の両方が絡んだ事件を複数取り扱ってきました。
最後に具体的な解決事例を2つ紹介します。
労災、自賠責ともに等級変更、労災年金を受給できる6級へ
被害者:20代男性
傷病:脳挫傷、骨盤骨骨折
業務中、赤信号を無視した自動車に衝突された事故です。相談時、すでに後遺障害等級認定は下りており、高次脳機能障害で労災保険は12級、自賠責保険は7級と、異なる等級になっていました。
依頼者様はこの等級の違いと、骨盤骨骨折について後遺障害認定が下りていないことに疑問を感じて相談に来られました。
当事務所の対応:
- 労災から高次脳機能障害の認定資料を取り寄せ、程度が低く評価されていることを確認
- 医師に自賠責用の資料を示し、ポイントを整理したうえで労災用資料を再作成してもらい、審査請求
- 骨盤骨の変形について診断書を作成してもらい、労災は審査請求、自賠責は異議申立て
結果:
- 労災保険→高次脳機能障害が12級から7級に変更、骨盤骨の変形障害12級が追加認定され、併合6級へ
- 自賠責保険→もともと7級だった高次脳機能障害に骨盤骨の変形障害12級が加わり、併合6級へ
労災保険では、障害等級が7級以上になると給付が一時金から年金に切り替わることもあり、依頼者様に非常に喜んでいただける結果となりました。
業務中に特殊車両との死亡事故で、遺族年金を止めずに約6,000万円獲得
被害者:50代男性
傷病:死亡事故
業務中に特殊車両にひかれ、被害者の方が亡くなられた事故です。
会社から賠償の話がまったくない状況のなか、ご遺族がご相談に来られました。
(後遺障害のある事故ではありませんが、自賠責と労災の両方の要素を持つ事例のひとつとして紹介します。)
当事務所の対応:
- 遺族年金が支給停止にならない、あるいは停止されても短期間にとどまる形で、かつ獲得額を最大化すべく、示談ではなく裁判での解決を選択
- 争点である過失について主張を尽くしたうえで、和解へ
- 和解後、保険会社と人身傷害保険の金額をめぐる交渉
結果:
- 会社からの賠償金と人身傷害保険を合わせて約6,000万円を獲得
- 労災保険の遺族年金の支給停止を回避
労災保険、自賠責保険、自動車保険が関係する事件だったため、それぞれの深い制度理解や獲得金額最大化に向けた戦略が必要なケースでしたが、交通事故に詳しい弁護士が担当し、最善の結果を得ることができました。
自賠責保険と労災保険が絡む事故は「交通事故に詳しい弁護士」に相談を
今回は自賠責保険と労災保険における後遺障害等級認定の違いやその理由、不服申し立てのフローなどを紹介しました。
自賠責保険と労災保険が絡む事故の解決は、通常の交通事故案件よりも判断すべき事項が多数あります。
どちらを先に請求するか、示談か裁判か、等級に差が出たときにどちらの手続きでどんな資料を追加するのか……、これらの判断は、進めてしまってから取り返すことが難しいものばかりです。
加えて、弁護士であれば誰でもこの分野に詳しいわけではありません。
「後遺障害等級認定を覆したい」「賠償金を最大限獲得したい」と考えているなら、「交通事故に詳しい」弁護士に相談しましょう。
クロノス総合法律事務所は、交通事故トラブルに特化した法律事務所です。
今回紹介した事例のほかにも、業務中・通勤中の交通事故も数多く取り扱ってきました。
交通事故後の対応に不安や疑問を感じた際は、症状固定を迎える前でも、認定結果が出た後でも、お気軽にご相談ください。
クロノス総合法律事務所はいつでも無料相談を承っています。